たくさん書きます。たくさん動きます。たくさん考えます。


よい夜


よい夜

 

少々前からですが、夜になると虫が鳴くようになってきた。

ああ!やっとこの季節がきた! と、思わずにはいられない。

 

だから私は最近、夜が楽しみで仕方がない。

それは、以下のような瞬間が訪れるから。

 

料理をしながらラジオを聞いているとそこに虫の音が混ざって来る。

ジャズか野球の放送を聞いていた私は、ラジオの音を下げる。

湯が沸く音と虫の音がしずかにしずかにひびく。

 

ジムノペディを流して読書していた私は、虫の音に気付く。やがて音楽の方がジャマになる。ふつうはありえないのだが、虫の音が聞きたくてしかたなくなってしまった私は音楽を止める。

ふわふわとカーテンをゆらす夜風と、努めて音を立てないようにしなければ聞こえない虫の音が、たまらなくいい。

 

仕事に疲れた日。

やるべきことを早々に終わらせて、畳の上に敷く布団に仰向けになって寝る。部屋は暗い。電気は点けない。耳を澄ませ、目は暗闇をぼうっと見つめる。目は次第に慣れ、木目が見えてくる。虫の音だけでなく、通りの方を走る車やバイクの音がする。ときには救急車や暴走族の音も聞こえる。そういった騒々しさもまた、いい。

 

再び、仕事に疲れた日。週末なので酒が呑める日。

野菜直売所で購入した巾着袋に貴重品と本を入れてサンダルで出かける。歩くたびにペタペタと鳴る。足は重くなく、軽い。気分もまた同様。風はおだやかですずやか。足の指の間を風が抜けていく。革靴などではありえないことだ。そしてそれを可能にしているのは、その夜。

 

虫の音に飽きて、音楽を流す。

ストレスのない日であったのならtake to the pilotかジョンコルトレーン、

疲れた日は加古隆かサティか久石譲、

明確に使い分けているわけではないが、そのような系統が多い。

そして、本を読むこともせずに背もたれを倒してただ音楽を聴く。

ちなみにえらんだものがサティかつジムノペディであればイスで寝てしまうことが多々ある。あれは睡眠導入剤として処方されてもよいと思う。

こんな夜を経ると、決まって目覚めがいい。深夜か陽も見えない早朝に起きても目覚めがいい。

音楽の偉大さをまたそうして知れたような気がする。

 

ここまで今の季節を前提とした夜のことをのべた。

ふと、

いままで過ごしたいい夜の中でもよりよい夜はどんな夜だったろうかと考えた。

 

黙考。

 

当たり前だが、生きてきた日数分だけ夜を過ごしてきたわけなので、

やはりこの世に生を受けた日の夜が最もよい夜だったのかな、と思う。

 

そして、

これを除けば、

旅行先で年上のお姉さんと過ごした夜だろうか。

あれは愉しい夜だった。

最終的にはヒトコワ的な結果につながるのだが、

それでもやはり愉しかった。

 

ではわるい夜とは───と、いきたいところだが、

ここは「よい夜」を題目にしているのでそれは却下だ。

 

ちいさな頃はほとんど誰とも同じように、

夜は暗くて怖くて嫌いだった。明確に、嫌いだった。

しかし今やどうだろう。

夜は好きだ。暗くて安心するし、穏やかになる。

しっかりととけこめているような感覚があるから、穏やかで在れている。

されども「なに」にとけこめているのかは、とんと知れない。

 

好きなのは、

ジムノペディや戦場のメリークリスマスが合うから、というわかりやすい理由もある。

暗くした室内で、たまに通る電車の音を聞くのがすきだから、というものも。

昼に聞いても騒がしいだけなのに、

夜に聴くと彩りになる。

 

私に言わせれば、

夜は昼よりも寛容だ。そしてあたたかい。だからおだやかに感じるのかもしれない。

 

静かな夜ばかりがあるわけではない。

騒がしい夜も、当然にある。

 

数日後、大学の同期とひさしぶりに会う。東京で、飲む。

当日は昼から飲んでしまう予定だ。

たのしく愉快な夜になると既に解っている。

管弦楽を楽しむ文化的な今日の夜と同様に、たのしくなる。

きっと今晩以上に。

 

文化的な夜。

酒乱的な夜。

しずかな夜。

騒がしい夜。

暑い夜。

寒い夜。

涼やかな夜。

慣れた場所での夜。

他所での夜。

船を漕がされ続ける夜。

眠れない夜。

眠る気のない夜。

などなど。

「夜」は分類分けできる。

してみると、すべての夜によい記憶とそうではない記憶がある。

 

その差はなんだろうか?

…………、………………………………。

それについて考えるのはいつかの機会に。今回はもう飽きてしまったし、なにより眠い。

寝るまでの間、坂本龍一氏のアルバムである「Opus」をたのしむことにした。

今晩もまた、よい夜だ。

よい夜が、ながくおおく続きますように。

 

 


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