たくさん書きます。たくさん動きます。たくさん考えます。


秋山瑞人氏 vol.1


秋山瑞人氏 vol.1

 

私にとっては。

すべてが名文である。私の理想である。篝火でもある。おそらくはそういう人は他にいるだろう。

 

「vol.1」とナンバーを付けたのはまた書きたくなる可能性が大いにあるからだ。

今回はまず「イリヤの空」について書くが、

当作品についてのあれこれを語り尽くそうと考えを巡らせれば言葉は倍々に増える。

 

秋山瑞人著の「イリヤの空」はつまるところひと夏のボーイミーツガールだ。

内容・詳細をこと細かに説明するような無粋なことはしない。したくない。

気になったのなら読んでみて欲しい。

 

文体はほのかに塩素のにおいが漂うかのようだ。そして儚さを孕む。

それは舞台が「夏」だから、ということだけではないように感じる。

 

シリアスと日常を反復横跳びすることによって、

日常の儚さが際立ち、

シリアスの異常性がより濃い輪郭を得ている。

 

作中で意味のわからない単語が躍るシーンがままある。

P170の6行目なんかその主な例だ。

「HUD、MFD、MFD、DED。ADI、VVI、HSI」

と、

イリヤが浅羽直之にゲームの操作画面を説明する場面なのだが、

まるで何を言っているのかちっともわからない。全然わからない。

主人公の浅羽直之と同様に意味のわからない単語をべらべらと並べられるシーンは、

だがしかし、なぜかここちいい。

調べる気も起きない。それはわからないほうがここちいいままではないかと思っているから。

 

でも、なぜなのかは気になる。知りたい。

 

以前はそうならなかった。なぜ、まったくわからないのに読みごこちがいいのか。

変わったということなのかもしれない。

 

例のごとく、改めて考えてみた。

物語だからだろうか。経済の本を読んでいてもここちよくならない。おもしろくはあるが。

黙考。

…………きっと、句読点での区切り方だろう。という結論に行き着いた。

 

秋山瑞人氏の文体は自由でありながら、

おそらく───どのようなものかは得体がしれないが───ルールに沿っていると思う。

だからテンポよく読み進められ、不可解でありながらもたのしいのだ。

 

不思議な文体が映えるのはストーリー性がその役割を買っているからなのか、

それとも、

他にないストーリーを魅力的な文体がより映えさせているからなのだろうか。

 

物語の進行は通り一遍のものではない。

短編をつぎはぎに組み合わせたかのような印象を受ける。

読んだ時点では深い価値を持たなかった物語が、

後々になって深みを増すようなことがある。

「番外編・死体を洗え」は謎と推測を深めるばかりだったが。

 

とりとめもなく。

ここまでぶつぶつと語ったが、

それの意味するところとしては、

うまく言い切れないほどに秋山瑞人氏の文体に魅力を感じずにはいられない、というところだ。

 

きれいにまとめきれていない言い訳に聞こえるだろうか。

そうなのかもしれない。

 

ただ、

きれいにまとめてしまうのは、

秋山瑞人氏の、

次元をどこまでも飛び越えるような自由さを持ちながら、法律のように理路整然としている、

相反とした性質を感じる文章に対して失礼であるような気がして仕方がないのだ。

 

私の知識・文章力不足ももしかしたらあるのかもしれないが、

まとめてしまうことは議論を収束させてしまうことにつながるのではないかと感じる。

それは嫌だ。

 

私は、

秋山瑞人氏の文章に触れると不思議な感覚に陥る。

それは、

先にも述べた自由と規律の完全な同居を見ているような感覚だ。

おそらくは、

そんな文章が私の理想だから強く魅かれる。

秋山瑞人氏の文章に触れた時からではなく、「本」というものに触れたときからの、理想。

 

秋山瑞人氏の文章を触れた時、

このために今まで多くの本を読んできたのだと思った。

これこそが私が求めていた文章だ、とも

 

パラドックスめいている。

しかしそう感じたのは事実だ。

 

今はその理想をかたちにするべく文章を書いている。

真似たいわけでも模倣したいわけでも、再度あの感覚に陥りたいわけではない。

ただただ私は自分の手で理想を形にしたいだけだ。

 

今回はここいらで秋山瑞人氏についての語りは了。

 

最後に、私が秋山瑞人氏の文章の中で最も気に入っているのは、

静岡県焼津港のマグロ漁船をネタにした文章である。

後にも先にも本を読んで吹き出したのは、初めて該当部分を読んだ時だけだ。

 

人に言われるまでもなく悪趣味だと思うが、

ユーモアと知性と著者の性格を感じずにはいられないあの文を、私は好む。

 

さて、今回はここまで。

では、また。

 


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